ユング派の心理療法(分析心理学)

カール・グスタフ・ユングという人は、一時期は、精神分析の創始者であるフロイトに非常に気に入られた人でした。しかしユングは無意識についてフロイトとは異なる考え方を持っていたために、フロイトと決別し、独自の流派をおこすことになりました。ユングは自分のおこした流派を分析心理学と呼びましたが、現在では「ユング派」とも呼ばれています。日本の臨床心理学の発展に大きく寄与した河合隼雄先生は、ユング派のセラピストでした。

では、ユングの考えはフロイトのものとはどう違っていたのでしょうか。フロイトは無意識というものを基本的に、人が認めたくないものを押し込めておくゴミ溜めのようなものと考えていました。しかしユングは、そのような個人的な無意識のさらに奥深くには、すべての人類が共有しているような広く豊かな領域、生命力に満ちあふれた領域があると考えました(このような領域を集合的無意識と呼びます)。ユングの考えでは、人間個人の意識というものは、生命が海や大地から生まれてくるように、この豊かな無意識から生まれてきたものなのです。世界中の神話や物語には、この人類共通の無意識に根ざしたさまざまなテーマが表現されています。ユングはこの深い無意識の領域を、単に個人の心の内側にあるものではなく、個人を超えたところで働くものとして考えています。このようなところからユングの心理学は、ちょっとオカルトっぽい、怪しげなものというような目で見られることもあるようです。

ユング派の心理療法は、この豊かな無意識の世界に触れていくことを中心としています。意識的な「私」と無意識の領域との接触は、イメージを通じて起こります。そのためユング派の心理療法では、夢に出てくるイメージや、子どもの遊びに出てくるイメージ、絵や箱庭(箱庭療法と呼ばれる技法で用いられる砂の入った箱で、いろいろなミニチュア玩具を置いてイメージを表現します)のイメージなどを重視します。精神分析ではイメージを分析してそこに表現された無意識内容を解釈して意識していくということが大事にされるのですが、ユング派ではどちらかというと、無意識からやってくるイメージがそれ自体として展開していくところに人の成長や自己実現(より深く自分自身になること)の可能性があるのだと考えます。