フォーカシングと、話を「聴く」こと

私は何を専門にしているのかと尋ねられたら「フォーカシングです」と答えているので、フォーカシングという「特殊な技法」を使った特殊なカウンセリングをするのだと思われることがあります。しかしフォーカシングというのは元々、カウンセリングがうまくいく時にはどんなことが起こっているのだろうかという研究から生まれてきたもので、それ自体としてはとても自然なプロセスです。私がおこなっているカウンセリングも、やり方としてはとりたてて特殊なものではありません(ちょっとかわった自分自身への注意の向け方を提案することはありますが)。私はフォーカシングが、カウンセリングを「普通」だけれども「良質」なものにしてくれるものだと思っています。

カウンセリングは、話を「聴く」だけのもの、と思われることがあります。しかしフォーカシングの理論は、「聴く」べきもの、「耳を傾ける」べきものは、語られた話の内容だけではないことを教えてくれます。フォーカシングは、語られた言葉のもとのところにある何か、まだ言葉になっていない体験や言葉にしがたい気持ちに、目を向け、耳を傾けることを大事にするのです。

言葉にすることはとても意味のあることですが、時には「話す」ことが、私たち自身の気持ちをおいてきぼりにすることがあります。でも気持ちは多くの場合、言葉になる少し前のところで、ちゃんと耳を傾けてもらうことを待っています。誰かに耳を傾けてもらうことを、そして、あなた自身に耳を傾けてもらうことを、です。「話すのは苦手」「自分の気持ちをうまく言葉にできない」と思われる人もいるかと思いますが、それはカウンセリングでは悪いことではありません。そもそも、自分の気持ち、自分が感じていることというのは、それほど簡単には言葉にできないものかもしれないのです。まだ言葉にならないその気持ちに、一緒にゆっくりと耳を傾けていくことを、当オフィスでは大事にしています。