変化のパラドックス

カウンセラーの仕事で難しいなと思うことの一つに、こんなことがあります。相談に来られる方はだいたい、状況を変えたい、自分を変えたいと思って来られます。ですからカウンセラーである私は、相談に来られた方から「どうやったら変えられますか」と問われるわけですね。しかし、私が「じゃあ、変えましょう」と言ってその人を変える方向にあまり積極的に乗り出しはじめると、逆になかなか根本的なところは変わりがたくなってしまうことが多いように思います。もちろん、できるところを少しずつ、地道に変えていくことで、ある程度のところまで生活を変えていくことはできます。しかし自分の心そのものが変化する時は、逆に、今の自分自身を受け入れることができた時であることが多いように思います。ですから私は、「変わりたくて」相談に来られた人に、一方では今の自分を「受け入れる」ためのサポートをすることになります。

「受け入れる」というのは正確ではないかもしれません。「今の自分を受け入れる」というと、今の自分で満足せよ、というふうにも聞こえるからです。今の自分で満足しなさい、変わらなくてもそれでよしとしなさい、というのでは、カウンセリングに行く意味などなくなってしまいますよね。私が言いたいのは、なんと言いますか、「今の自分と仲直りする」「これまでの自分と仲直りする」というようなこと、変化はそれによって生じる部分が大きいということなのです。「こういうふうに変わりたい、でも変われない」という時に、この「変われない」というところにある気持ちや思いに(相談に来られた方とカウンセラーとが一緒に)優しく耳を傾けていくこと、その「変われない」自分と仲直りすることで、はじめてその「変われなかった」ものが先へと進んでいく余地が自分の中に生まれます。

カール・ロジャーズという人は、「奇妙な逆説だが、自分をありのままに受け入れた時に私は変化する」と述べています。変化や成長の種は、自分の外側の世界で出会われることもありますが、自分の内側の、意外なところで見出されることも多いように思います。