心は簡単にはわからない、と知っているということ

心理を仕事にしていると言うと、時々、「じゃあ、心が読めちゃったりするの?」というようなことを言われることがあります。もちろん、そんなことはありません。個人的には、心理士の専門性、あるいはセラピストの専門性のひとつは、心というのはそう簡単にわかってしまえるものではない、ということを人よりもよく知っているというところにあるのではないかと思っています。

テレビで、人が今どう考えているかを当ててしまう人が出てきますね。見ていて、すごいなと思うし、正直あれぐらい相手の考えていることがわかったらかっこいいなあと思う部分もちょっとあるのですが、でも相手の考えが手に取るようにわかってしまう人は、セラピストにはあまり向いていないのではないかという気もします。人はわかったと思ったところでそれ以上のことに目を向けなくなってしまいがちですし、私たちは自分よりもあまりに早く自分のことをわかってしまう人の前では、自分自身のまだよくわかっていない部分にみずから主体的に向きあっていくということがしづらいように思うからです。セラピストは、いつでもまだわかっていないクライアントの心の部分に気づいていて、これはいったい何だろうね、と興味をもって一緒に目を向けるという感じがちょうどいいのかもしれません。