解決志向アプローチ

解決志向アプローチはブリーフセラピーと呼ばれるアプローチのうちの一つです。「ブリーフ」とは、「短い」とか「簡潔な」といった意味。ブリーフセラピーは、精神分析に代表されるようなこれまでの心理療法が時間のかかるものであったことから、より短期に効率的に効果が出るような心理療法のやり方を工夫しようというところから生まれました。

解決志向アプローチの特徴は、「問題」に焦点を当てるのではなく、「解決」に焦点を当てるというところにあります。こう聞くと、いや、解決というのは問題が解決することなんじゃないの? と思われるかもしれません。確かに、たとえば機械が故障したような場合には、どこが悪いのか問題と特定して、その部分をなおすとか交換するとかすることが解決につながる場合が多いですね。しかし人間の心に関する事柄では、問題を発見することが必ずしも解決につながらないことも多いのです。たとえばある人が、今の職場で働くことが苦痛だ、と言って心理療法を訪れるとします。このクライアントとセラピストは一緒になって、何が悪いのか、自信が持てない原因は何かを探します。職場の上司が悪いのではないか。いや、会社の雰囲気や文化の問題ではないか。そもそも、自分が精神的に弱いのが問題なのではないか。でも元々は、親の育て方が悪くて自分はこうなってしまったのではないか…云々。しかし、原因がわかったところで必ずしも解決策は見えてきません。

そこで、何が悪いのかではなく、「どうなったらいいのか」を考えてみることにします。その最初の一歩は、すでにある「いいこと」、すでに起こっている「部分的な解決」を見つけることです。「こんなことが問題だ」と考え始めると、今の状況の中にすでにある「いいこと」に目が向かなくなります。でも、多くの場合、すべてがすべて問題だらけだということはないのです。たとえば、職場の中でこの人は自分を励ましてくれるとか、少なくともあの上司は自分を責めたりはしないとか、あの時は少しだけ達成感を得ることができたとか、この会社のこんなところはちょっとだけ好きだとか。その上で、もし自分が今の職場で働くことが苦痛でなくなっている日が来るとしたら、それは職場での生活がどんなふうになっているということなのかを、具体的に想像してみます。やってみるとこれが意外と難しいのですが、解決している状態を具体的にイメージできると、ぐっと解決に近づきやすくなります。そうしたら次に、では今の状況からほんの少しだけその解決した状態に近づくとしたら、まずどんなことから実現しそうなのか、ということを考えていきます。

ここには、私たちが日常で使えるたくさんのヒントがあります。たとえば、「悪いことをなくす、減らす」という目標よりも「いいことを増やす」という目標の方がやりやすいということ。「悪いことをなくす」場合には、一ヶ月悪いことがなかったとしても、一度悪いことが起こると「ああ、やっぱりダメだ…」となってしまいがちです。しかし「いいことを増やす」場合には、いいことが起こったたびに「よし、うまくいっているぞ」と思うことができます。また、解決はできるだけ具体的に思い浮かべるのが大事ということ。「職場でいきいきと働きたい」という目標は少し漠然としていますので、具体的にどうなっていれば自分はいきいきと働いていると思えるのか、もう少し具体的なイメージを思い描くようにします。それから、解決への道は小さな一歩一歩の積み重ねで進んでいくということ。これをスモール・ステップといいます。

最後に、解決志向アプローチで用いられる、「ミラクル・クエスチョン」という質問を紹介しましょう。今晩あなたが寝ている間に、奇跡が起こって、すべての問題が解決するとします。でも朝起きたあなたは、まだ奇跡が起こったことに気がつきません。起きて一日の生活を始めたあなたは、日常のどんなこと、どんな兆候から、奇跡が起きたことに気づくでしょうか?