パーソン・センタード・アプローチ(クライアント中心療法)

パーソン・センタード・アプローチは、カール・ロジャーズという人によって創始されました。ロジャーズのアプローチは「クライアント中心療法(来談者中心療法)」という名前でも知られています。

お医者さんにかかる時などは、私たちは多くの場合、専門家としての知識が豊富なお医者さんに自分の健康状態を委ね、お医者さんの判断と指示に従います。いうなれば「お医者さん中心」です。心の問題についても、昔は特に、専門家の方がクライアント(相談にくる人)の心をよくわかっている、という考え方があったようです。しかしロジャーズは、クライアントのことを一番よくわかっているのはクライアント本人であると考え、クライアントを中心としたカウンセリングを提唱ししました。専門家の方がわかっているという考えは、理論を中心にして人を見ていこうとする立場ですが(つまり専門家は心についての理論をよく知っているのでクライアントの心がクライアント以上によくわかる、ということですね)、ロジャーズの立場は「人」を中心にする立場です(つまり「その人がいま実際に何をどう体験しているか」が大事だということです)。

では、セラピスト(カウンセラー)はいてもいなくても構わないのでしょうか? いえ、ロジャーズはむしろ、セラピストの態度こそがクライアントに好ましい変化が起こるための鍵だと考えました。セラピストがクライアントに自分の意見を押し付けたりするのではなく、クライアントに常にあたたかいまなざしを向け(無条件の肯定的尊重)、クライアント自身にとって物事がどのように体験されているのかを共感的に理解すること(共感的理解)、また、セラピストが専門家ぶるのではなく自分自身としてそこにいること(自己一致ないし純粋性genuinness)で、クライアントの内側に流れている自然な成長のプロセスが促されます。クライアントは「こうあらなければならない」「こうでなければならない」という固定した考えにとらわれ、そうでなければ自分は人に受け入れられないと思っていることが多いのですが、セラピストの態度がこのとらわれからクライアントを解放し、自分自身の感じていることに自分をひらくことを可能にします。クライアントの成長は、ここにかかっているのだとロジャーズは考えたわけです。

現在ではロジャーズの考え方は心理療法の世界に広く影響を与えていて、セラピストがクライアントを否定することなくその言葉に耳を傾ける、という心理カウンセリングのイメージは広く根づいている印象があります。その意味で、ロジャーズの考え方をいま聞くと普通のことのように聞こえてしまう部分もあるのですが、当時はロジャーズの提案は、ラディカル(急進的)な、思い切ったものであったに違いありません。ロジャーズが提唱したようなセラピストの態度は多くの流派の心理療法やカウンセリングにおいて今でも確固たる基本であり、その意味で、現代おこなわれているカウンセリングはロジャーズが大事に考えたものを基盤としてなりたっているのです。