フォーカシング指向心理療法

「パーソン・センタード・アプローチ」のページで書いたように、カール・ロジャーズはクライアントとセラピストの関係性がセラピーがうまくいくかどうかを決めるもっとも重要なポイントだと主張しました。この点を実証するためにロジャーズは大規模な研究をおこないました。しかしその結果、セラピーがうまくいくかどうかにもっとも関連していることは、クライアントとセラピストの関係性よりも、クライアントがどんなふうに話をするかということだということがわかりました。

これはちょっと驚くような、面白い結果です。セラピーでは、クライアントが「どんなふうに」話していたかが、「何を」話したかということよりも重要なのです。では、どのような話し方がいいのでしょうか。もしクライアントが、内容としては深そうな話をしていても、それをもうわかっているというような感じですらすらと話すような時には、セラピーはあまり効果的なものとはなりません。しかしクライアントが、「これは、なんていうか…腹が立つっていうか…なんか、悲しいな、っていう感じなんですよね…うーん、ちょっと違うかな…」というふうに言い淀みながら話す時には、クライアントに変化が生じやすいのです。このような時クライアントは、自分自身のまだ言葉になっていない体験に触れながら、「今ここ」で新鮮に体験を言葉にしようとしています。

ロジャーズの共同研究者であったユージン・ジェンドリンは、セラピーがうまくいく時にクライアントの内側に生じているプロセスを、フォーカシングというメソッドとして体系化しました。フォーカシングという技法は自分自身に触れ自分自身をケアするための自助(セルフヘルプ)技法ですが、フォーカシングの考え方をセラピーに応用することもできます。これをフォーカシング指向心理療法と呼びます。

フォーカシング指向心理療法はパーソン・センタード・アプローチの発展系であり、パーソン・センタード・アプローチの一部だと言えます(ただ、ジェンドリンはフォーカシングをさまざまなアプローチに統合できるものと考えましたので、たとえばフォーカシング指向の認知行動療法といったものも可能です)。フォーカシング指向心理療法はこんなふうにやるものだというはっきりした決まりはないのですが、セラピストがクライアントとの関係を大事にし、丁寧にクライアントの話に耳を傾けながらも、クライアントが体験に触れながら話をしているかどうかに注意を向け、時にクライアントがしっかり体験に触れられるように援助をするようなセラピーがフォーカシング指向心理療法だと言えます。