認知行動療法(認知療法)

認知行動療法は、現在医療機関などでも積極的に用いられており、もっとも勢いのある心理療法だと言っていいでしょう。もともとはうつ病治療のためのアプローチから発展したものですが、現在ではさまざまな心の不調に対して効果が実証されています。認知行動療法の強みは、効果を客観的・実証的に示すことができるというところにあります。

認知行動療法は、特定の創始者がいるわけではなく、また一つの治療理論に基づいているわけでもありません。認知行動療法はいわば道具箱のようなもので、さまざまな技法のレパートリーの中からその人の現在の状況にあった技法が組み合わされて用いられます。技法には大きく分けると、認知的なアプローチ、つまり物事の受け取り方に働きかけるアプローチと、行動的なアプローチがあります。ここでは認知的なアプローチについて説明をします。

私たちはある出来事に接した時にさまざまな感情を持ちます。たとえば、誰かにほめられて嬉しく自信に満ちた気分になったり、ミスを指摘されて落ち込んだりします。私たちは、こんな出来事があったのだからこんな気持ちになるのは当然だ、と思いがちなところがありますが、実は出来事と感情の間には「思考」が働いています。たとえば、

【ほめられた → 受け入れてもらっている/自分はできる → 嬉しい/自信】

あるいは、

【ミスを指摘された → 自分はこんなこともできないダメな奴だ → 落ち込む】

という具合です。認知的なアプローチではこの思考の部分に働きかけていきます。というのも、思考の癖のために心が不調におちいっているということが、人間にはよくあるからです。

うつ病になりやすい人によくある思考の癖に、自分のいい部分やできたことについては「こんなの大したことではない」と考えて価値を認めないけれど、悪いことやできなかったことについては「ほら、これだから自分はやっぱりダメな奴なんだ…」と、自分がダメであることの証拠として採用する、という偏りがあります。心当たりのある人はいませんか?

思考の癖にはさまざまな種類があります。たとえば、物事を白か黒か、ゼロか100かで考えてしまう癖(「完璧にできなかったから、全部無意味だ」)。限られた事柄を一般化して、「いつも」「すべて」こうなのだと決めつけてしまう癖(「自分はいつも失敗ばかりだ」「みんなが自分を嫌っている」)。実際以上にひどい結果が待っているに違いないと考える癖(「もうおしまいだ」)などです。こういう考えはほとんど意識しないところで自動的に出てくるので、自動思考と呼ばれます。ここに例としてあげたような思考の癖はうつ病になりやすい人に特徴的なもので、結果的に自分や自分の人生が無価値だという感覚を強めてしまします。そしてこれらの思考の癖は、自分はこうあらねばならない、物事はこうあらねばならないという、固くて柔軟性を欠いた信念にその根を持っています。

認知的なアプローチでは、物事に対する自分の見方が偏っていること、柔軟性を欠いた信念に基づいて判断していることに気づき、より客観的な考えも持てるように練習していきます。うつ病になりやすい人は自分の中で常に自分を罵倒しているようなことがよくあるのですが、認知行動療法を学ぶことは、自分の中に自分の弁護をしてくれる味方を育てることに似ています。あるいは、自分の中に「ツッコミ役」を育てる、という言い方もできるかもしれません。

最近は、第三世代の認知行動療法と呼ばれる新しいアプローチも発展してきています。これについてはマインドフルネスのページをご覧ください。